【火の番と俺の時間】
薪がはぜる音が、今日のBGMだ。

ここに来ると、時計を外す。スマホの電源も切る。
時間の流れは、火の燃え方と、湯の沸き具合で感じればそれでいい。
軍幕の奥で、荷物の配置を整えた。
ギアラックに吊るしたナイフが、朝の霧を静かに受けている。
焚き火台には、昨日の煤が残っていたが、それも味だ。洗わない。洗う必要がない。
俺はホーローマグに湯を注ぎ、豆から挽いたコーヒーをゆっくり淹れる。
最初の一口で、肩の力が抜ける。
うまいとか、まずいとか、そんな尺度じゃない。
ただ、"しっくりくる"。それが大事なんだ。
昔の仲間の名前が、ふと浮かんだ。
奴らは今どこで、どんな暮らしをしてるだろう。
誰に聞かせるわけでもなく、俺はそのまま煙に思いを預ける。
静かだ。
焚き火の火を見ていると、自分の内側まで整っていく気がする。
何も起きない、ただそれがありがたい。
秘密基地というには、もう歳を取りすぎたかもしれない。
だが、誰にも見せない、誰にも邪魔されないこの場所で、俺はちゃんと“生きている”。
そう思えるだけで、ここに来た意味はある。